佐々木康光さん(グリーンマネージャー)前編
団地のひとインタビュー 017
きれいに保ちたい思い出の場所
UR賃貸住宅ではグリーンマネージャーと呼ばれる人たちが団地の植物管理に取り組んでいます。
時間とともに成長する植物を「手入れ」することで美しい景観と快適な環境をつくる。
これがグリーンマネージャーの仕事です。
今回はグリーンマネージャーの佐々木康光さんと京都の桃山南団地を歩きながらその技についてお話を伺いました。
佐々木康光さん(ささき・やすみつ)
造園職人としての豊富な経験を持つグリーンマネージャーで、㈱URコミュニティに所属。
好きな樹木は『ナツハゼ』。関西ではあまり見られないが、佐々木さんの故郷、東北ではよく知られた木。
ブルーベリーに似た果実がなり、秋の真っ赤な紅葉が美しいことでも有名。
ここ桃山南団地は、佐々木さんが以前担当されていた中でも、思い入れの深い団地と伺いました。本日はよろしくお願いします。
佐々木:いくつもお気に入りのポイントがあるのですが、まずは団地中央にあるメインストリートのケヤキがおすすめです。
担当していた時から、この景色が大好きなんです。とはいうものの、お住まいの方にとっては風景と同時に日当たりも大切です。そのため、毎年6月頃までに1週間ほどかけて、ケヤキの枝抜き・枯れ枝取りを行っています。
このケヤキはかなり背が高いので、剪定するには機械が必要ですよね。
佐々木:高所作業車を使わないと上まで剪定できませんね。
以前は高い所まで手を出さずに、主に大きな枝を切っていましたが、木の形がおかしくなってしまいました。高い所まで人が行くことで、枝先を透かすように剪定し、木漏れ日が差し込むスペースを作ってあげられると、樹形も維持できるので良いと思っています。
この大きさの木に対して、枝先を切っていく作業はとても時間がかかりそうですね。
佐々木:そうですね。それでも、この並木は団地のメインストリートなので、きれいに保っていきたいこだわりの場所です。
葉がある時期はこのような風景になります。
お住まいの方の生活通路、小学生の通学路として大活躍の道です。(※)
桃山南団地の植栽の特徴はありますか?
佐々木:住棟前に椿、山茶花(さざんか)、金木犀が多いことでしょうか。
これらの樹木も、外側だけを長い間刈り込んでいたせいで、木の中に枝が詰まり、奥が見えないような状況になっていました。そうすると風通しが悪くなり、病気や害虫も出やすくなります。なるべく樹木の中まで陽をさして、風通りをよくするよう、小さな木に対しても「透かし剪定」を利用して、管理に取り組んでいます。
透かし剪定とは…?
本来の樹形を活かしながら枝を透かすように剪定すること。美しく爽やかな景観となる他、風通し・見通しや花付きが良くなる等のメリットがあります。
左:before 右:after
暮らしの身近にある樹木ですから、安全も見た目も大切ですね。
佐々木:ちょっと専門的になりますが、植木屋の目線でいくと、これは少し残念ポイントですね。大きな枝に沿って切っていないので、枝の先が少し残っています。残された枝の先が上を向いているので、ここから水を含んで木が腐ってしまう可能性があり、注意しないといけないポイントです。
京都の植木屋さんの言葉では、このような切り残した部分を「かっくい」と呼びます。「かっくい残すなー」とか親方に言われますよ。なんで「かっくい」という呼び名になったかはわからないですがね。
かっくいを残さない剪定のコツはありますか?
佐々木:もっと樹木の中に鋏(はさみ)を入れて剪定することでしょうか。
これなんか、もう5mmくらい中に入って切らないといけないですね。鋏にもいろいろと種類があって、かっくいが残りやすいもの、残りにくいものがあります。
かっくいが残りやすい、というと先の丸い剪定鋏でしょうか。
佐々木:そうですね。先が丸いと中まで入っていかないので、きれいに切れないんですよ。僕たちが若いときは、個人宅のお庭の剪定に伺うとき、剪定鋏を持ってたら怒られました。和鋏の先が細いものを使って、きれいに剪定すべきですので、使う道具も気を付けないといけません。余談ですが、京都言葉では先の細い和鋏のことを「わらびて」と言いますね。
剪定鋏にはどのようなものがあるの…?
用途によって刃の長さや大きさが異なります。
ここでは佐々木さんが愛用している3種類の鋏を紹介します。
左:一般的な剪定鋏 真ん中:わらびて 右:きりばしと呼ばれる剪定鋏
佐々木:新しいはさみを下した時には、1年かけて刃を鍛えていきます。最初は柔らかい「マツ」から切っていって、最後は「カシ」を切るように順を追って馴染ませないと、刃がぼろぼろになってしまいます。
道具も鍛えないといけないんですね。木に柔らかさがあるとは、知りませんでした。
佐々木:もう少し小さいサイズの植栽ですと、このナンテンも剪定を行っています。以前は1.5~2m程の高さがあり、大きく成長していたのですが、今は『玄関らしさ』を考えて、自然な形になるよう調整しています。小ぶりでかわいらしいと、いい感じの雰囲気を出すことができます。
この団地はURの中でも植栽量が多い方ですが、歩いていてリズム感のある、気持ちのいい印象を受けます。全体的に自然な形に整えるよう剪定されているからでしょうか。
佐々木:京都らしさを演出するという点でも、決まった形に刈り込むような固いイメージではなくて、その植栽の持つ優しい自然な形に整えていくことが必要だと考えています。無理に大きさを変えずに、ケヤキはケヤキらしく、椿は椿らしく育てていくこと、樹木の大きさが苦にならないよう透かして軽い印象にすること、の2点が植物管理の基本的な考え方です。団地にお住まいの方に、気持ちよく過ごしていただけるような空間を作っていきたいですね。
桃山南団地に植えられている植物の数は…?
ここには、約150種類、2万本の植物が植えられています。
桜や椿などの花、ケヤキの新緑、モミジの紅葉など四季折々の変化を楽しむことができるおすすめの団地です。
後編は、佐々木さんおすすめの「ドウダンツツジ」「エノキ」と、最も思い入れのある「アラカシ」を訪ねます。次回更新をお楽しみに!
※記事内の写真について……2018年9月に関西を直撃した台風21号の影響により、倒木等の被害がございました。掲載写真について、実際の状況と大きく異なるものがございますのでご了承ください。(2019年2月追記)