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今日も団地では楽しい笑い声が聞こえます。人と人がつながる”団地暮らし”の魅力とは。

人と人がつながる 団地暮らしの魅力

artproject_stage16(その1)

しらさぎ舞い降りる富田団地、再び  


「大阪芸術大学×UR アートプロジェクト」は、5年目を迎えました。3年生の主力メンバーが、2年生、1年生と手を取り合い、富田団地(大阪府高槻市)を舞台に『ココロ ツナガル しらさぎプロジェクト』をスタート。11月3日(土・祝)に向けたプレ企画として、10月14日(日)、2つのプログラムが玉川コミュニティセンターで行われました。毎年、恒例の「いも掘り 焼きいも大会」に参加された住民のみなさんが、学生たちの呼びかけに応えてくれた当日の様子をご紹介します。


住民のみなさんの笑顔に迎えられて
 富田団地は、アートプロジェクトにゆかりの深い団地の一つです。ちょうど、2年前には、「ココロ ツナガル おいもはん」で学生たちと一緒に、富田団地で育ったお芋を使って判子を制作し、一人一人が団地にメッセージを送るというプロジェクトを行いました。当時、1年生だった学生が、今回は中心メンバーです。住民のみなさんから、「ああ、久しぶりね。今日は何するん?」と、笑顔で迎えられていました。

 お芋掘りのスタート時、プロジェクトのコーディネーターを務める洲谷穂香さん(大阪芸術大学芸術計画学科3年生)が、プログラムの説明を終えると、内容を聞いていた住民のみなさんから温かい拍手が送られました。なかには、「若い子って、いいわねえ。可愛い!」という声も。
 学生たちに温かい言葉をたくさんいただき、通い馴れた富田団地のみなさんの明るい笑顔に迎えられ、まるで実家に帰った時のような安堵感に包まれ、緊張もほぐれた様子でした。


馴れない手つきで、甘酒ラテづくりが始まる
 
まず、テント設営後に始まったのが、アートカフェで振舞われる甘酒ラテづくりです。
 甘酒は、酒粕でつくるものと、米麹でつくるものがありますが、本プロジェクトの総合ディレクターを務める大阪芸術大学芸術学部芸術計画学科教授の谷悟先生が、高槻市内で安政3年(1856年)から酒造りをしている清鶴酒造株式会社さんに協力を要請。純米吟醸酒の酒粕をお分けいただくことができ、銘酒”富田酒”の風味にあふれる美味なる甘酒ラテの完成をめざしました。「アートプロジェクトの活動を促進するためにフードメニューを考案する場合は、この場所で永年愛され続けてきた素材を使い、地産地消をおこなう姿勢が必須条件であり、それは、あらためてまちの魅力を語ることにつながる。」と谷悟先生はその意味を強調されました。

 酒粕をすり鉢で滑らかにするのは、学生たちも初めての経験です。思うように、すりこぎを扱えず、思い描く滑らかさが生まれません。テントの前には、あっという間に長い行列ができ、待ちくたびれてしまった住民の一人が、学生にすりこぎの扱いを伝授。力の入れ方や角度を実演指導してくれるという、思わぬ楽しいハプニングもありました。
 すりこぎの扱いを伝授された学生たちは、スピードがアップし、甘酒ラテのクオリティもどんどん上達。最後のひと鉢でつくられた甘酒ラテは、純米吟醸の甘みがほんのり残り、なめらかで喉越しのいい甘さで、お代わりのおねだりも。想定外の大反響に、学生たちの筋肉痛も幸せの痛みになったのではないでしょうか?


団地新聞『しらさぎ』500号をねぎらう
 
『ココロ ツナガル しらさぎプロジェクト』には、40年以上にわたり富田団地を見守り続けてきた団地新聞『しらさぎ』500号を記念し、制作し発行し続けてこられた歴史へのねぎらいの意味が込められています。

団地新聞『しらさぎ』500号

 『しらさぎ』のネーミングは、かつての富田団地周辺の原風景に由来しています。団地に隣接する柳川地区には、衣装などを入れておく柳行李の製造に必要な柳(背の低い柳の一種)がたくさん植えられていました。清いせせらぎに柳の並木。しらさぎにとっては、食料となる小魚も豊富で、安全で安心できる生息環境だったのでしょう。川辺で集落(コロニー)を形成し、睦ましく暮らす姿を団地での生活に思いを重ねたのか、『しらさぎ』と名付けられました。
 「『しらさぎ』は、2018年3月に500号を迎えました。団地で豊かに生活するための情報を届け続けたことは、住民のみなさんの絆を深め、真の共同生活を目指す上で必要不可欠なツナガリとなったことは言うまでもありません。そのツナガリを未来に伝えるために、『しらさぎの力で、新たな夢を育み、その想いを飛翔させる』ことを目的として、住民のみなさんと一緒に「『しらさぎ』500号の節目を称えたいと思っています」と、谷悟先生。
 しらさぎでツナガル笑顔あふれる団地の風景をずっと残し、子どもたちの世代に伝えていくことも、アートプロジェクトの役割の一つだと思います。




手づくりの「しらさぎ羽根型クッキー」
 
甘酒ラテと一緒に振舞われたのが、しらさぎの羽根の形をかたどったクッキーです。甘酒ラテの甘さを考え、甘さ控えめのクッキーは200枚用意されていました。
 谷悟先生の右腕で、プロジェクトのテクニカルディレクターを務める大地泰輔さん(大阪芸術大学通信教育部美術学科4年生)が制作した自家製クッキー型を元に、洲谷さんがお母さんに協力してもらいクッキーを焼きました。その上に、メンバーと協力し、シュガークラフトを振り掛け、しらさぎの羽根を演出。しらさぎ型に切り抜いた板の上にデコレーションするやいなや、どんどん住民のみなさんに配られました。

 中には、あまりの美味しさに、クッキーの作り方を聞きに来る男の子も。材料やレシピを手書きで用意し、洲谷さんが丁寧に教えていました。クッキーの小さなツナガリが、学生と子どものココロのツナガリにもなりました。小さなツナガリ一つひとつの積み重ねが、住民のみなさんのココロのツナガリに広がってほしいと期待が持てました。


折り紙のしらさぎで、ココロを一つに
 コミュニティセンターの一室には、テーブルとイスが並べられ、折り鶴をアレンジした折りしらさぎづくりのワークショップも行われました。タイトルは、「アナタト ツナガル おりがみワークショップ」です。
 初めに、真っ白な折り紙に、参加者一人ひとりが、大切な人に向けた言葉、団地をつないできた団地新聞『しらさぎ』への感謝の言葉、富田団地への想いなどを書きます。そのメッセージは映像加工され、次のプログラムを創る大切な役割を担います。

 メッセージを書き終えた折り紙を、手順に沿って折ると、しらさぎが完成します。
 「いつもありがとう」と、お母さんへの感謝の気持ちを綴る子どもさんは、キラキラとした眼で笑っていました。また、「いつも一緒に遊んでくれてありがとう。これからも友達でいようね」と、友人同士でお互いに感謝を伝え合う小学生のグループは長い時間真剣にしらさぎを折っていました。小学2年生の娘さんに、「いろいろがんばってくれてありがとう」とメッセージを残してくれたお母さんの姿もありました。


羽根を休めるしらさぎを包み込む風土
 約2時間、アートカフェとワークショップの時間が過ぎました。
コーディネーターの洲谷さんは、「大学から移動するバスの中では、非常に緊張していました。それでも、3年生の友達が率先して1年生、2年生に指示してくれたし、下級生も、自らどんどん動いてくれたので、助けてもらいました。なによりも、たくさんの住民のみなさんに参加していただけたので、とても嬉しい気持ちでいっぱいです」と、笑顔で語ってくれました。

 「2年前、富田団地のみなさんは、学生を快く迎え入れてくれました。そのことに、私たちは感謝の意を示し、このコミュニティのみなさまが自分の住み処を愛し、誇ることにつながる機会を創ることができればと思いました。学生たちが様々なプログラムを展開させることで、住民のみなさんがココロのツナガリを体感し、家族や近隣住民の存在を想い、温かい気持ちがより一層育まれると、さらに強く美しいコミュニティになります。アートプロジェクトを通して、みなさんのココロに響くことができるよう学生たちもユニークなプランを考えていますので、11月3日のメイン企画もぜひ、ご参加いただきたいと思います」と、谷悟先生。
富田団地には、40年を越える団地新聞『しらさぎ』の原動力となってきた住民のみなさんのパワーがあります。そして、長年にわたり住みやすい団地を形成してこられた住民一人ひとりの気遣いや優しさが、いつの時代にも移り住んでくる人を温かく迎え入れてきました。羽根を休めるしらさぎのように、また羽ばたき飛んでいくまで、富田団地で安心してパワーを養うことができたのだと思います。


富田団地で生まれ育った子どもたちも大人になるにつれ、別世界に羽ばたいていきます。大阪芸術大学の学生たちも、羽根を休めるしらさぎのように守られた環境の中で、社会の厳しさと優しさを学ぶことができていると思います。アートプロジェクトに携わった1期生は、まさに、富田団地のみなさんとのココロのツナガリを学び、しらさぎのように社会に飛び立っています。

「アートプロジェクトは、単に芸術作品を創作、展示、上映、上演するものではなく、1つのテーマをもとに、開催される場で暮らす人々とコミュニケーションを重ね、信頼関係を育み、それをふまえた内容を美しく宿す表現に高めることに意義があります。学生たちは、今回の手ごたえを活かしながら、真剣に準備を進めています。次に続くメイン企画で、住民のみなさまと我々の間で如何なる相互触発が生じるのか非常に愉しみです。」と谷悟先生はうれしそうに語られました。

撮影:加藤大

住所:高槻市奈佐原二丁目7

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